オランダ セミナー レポート
( In de ban van Japan 2006 )
Drogteropslagen Netherlands

このレポートは、スクールの練習法などを熟知した会員様への報告を兼ねて書いたものです。
一部に解釈が困難な所があります事をお詫びいたします。
準備編 セミナー編

コンペティション編


その前に・・

 セミナーが終わりホッとした。

 土曜日はアジの競技会を見学しながら、中一日の休養日をゆっくり楽しんだ。
この競技会をもってO氏の全日程は無事終了した。
このセミナーと競技会にも、世界大会のオランダ代表メンバーのアジラーが、
新しいパートナーと出席していたが、O氏は堂々と持論を展開し尊敬の念を勝ち得ていたようだ。
一週間の滞在の後に、彼らは新しいパートナーのデビュー戦のために、
ベルギーの競技会参戦へ向けて出発すると言う。
精密機械のエンジニアと言う職は大丈夫なのだろうか?
ひとごととは思いながらも、スケールのでかいレジャーに感心しながら心配する。

 こんな事があった。

 アパートの冷蔵庫には、主催者が滞在中の為に用意した飲み物が
ドリンクホルダーにぎっしりと入っている。
気を利かしてかビールがびっしりと、コーク・ジュース・ミネラルウォーターが数本。
O氏はほとんどアルコールを口にしないと言う。
確かに今回の滞在中、一度もアルコールを口にしなかった。
私はというと、病的なまでに体がアルコールを受け付けない。
当然のように、だいじに飲んだノンアルコール飲料も,3,4日でなくなった。
オランダの夏は日が長い。
9時を回ったと言うのに外はまだ明るい。
気晴らしに、外に出て草を食む馬達を眺めながら深呼吸をするが、
渇いたのどを鎮めるほどの効果は無い。

 帰宅途中の隣家の窓からは、コークを飲みながら一家団欒中の隣人が、
手を上げながら毎日のように声を掛けてくれる。
近くに店など無い、隣家にはきっと買い置きがあるはずだ。
「よし、あのコークをゲットしよう」
事前に英語が通じる事を確認していた我々は作戦を練った。

 まず隣家のチャイムを鳴らす。人のよさそうな隣人が出てくる。
「この付近に飲料水の自動販売機はありませんか?」
答えは「ノー」に決まっている。
だが、ここで引き下がるわけにはいかない。
「のどが渇いたので何か飲み物が欲しいのだが、少しくらい遠くても構わないので、
歩いて行ける位の所に飲み物を売っているお店はありませんか?」
これも、答えは「ノー」だろう。
だが人のよさそうな隣人は、きっとこう言うに違いない。
「コークで良かったら買い置きがあるから、それを分けてあげても良いよ」

 「よしッ、決まった、この手で行こう」
ふたりして、まるで物乞いでもするかのような気持で、隣家のドアーの前に立つ。
チャイムをならす。
気のよさそうな隣人が出てくる。
O氏が英語で脚本どおりの事を告げる。
私にも明らかに「ノー」と解かる返事が返ってきた。
ここまではすべて脚本どおり、O氏は更に問いかける。
次の答えは長かったが、隣人が背を向けて奥の部屋に移動する姿とO氏の笑顔で
すべてが脚本どおりになった事が理解できた。
絵に描いたようにコーク獲得大作戦は成功した。
ワンカートンのコークを手に意気揚々と引き上げる。
「コークがこんなにおいしいとは・・」
ふたりでこみ上げる笑いを押さえようともせず、大笑いしながら一本のコークを飲み干した。

PM8:30、隣家のみえる牧場、右の林の向こうに我々の宿舎が・・


 私のルーツ

 
最後の仕事、コンペティションの審査の日だ。
「In de ban van Japan 2006」今回のセミナーのタイトルだが、
意味は解からない、今も解からない。
そのうち聞こうと思いながら、最後まで聞くのを忘れていた。
会場は飾りつけも終わり、音響設備も整っていた。
記録の為のPCなども揃い、助っ人の要員も手配してあるようだ。
音響係はWiesの旦那さんが担当らしい。
Wiesだけが大きな体を揺すりながら、いつもより機敏に動いている。
会場では衣装のチェックをしあう人達もいて、雰囲気は盛り上がっている。
中でも小さな頃、バングラディシュから里子としてオランダ人夫婦に引き取られ、
オランダ人として育ったと言うインド系の女性の衣装は、目を見張るほど素晴らしかった。
自分のルーツをフリースタイルで表現したいと思い、手作りで作ったと言う衣装は
インド舞踊で見るような華麗な衣装で、正装した姿を早く見たい気にさせる。
小道具を抱えて会場入りする方もいる。
今回初めてお会いする方もいる。
小さなコンペだが華やかな雰囲気が漂いはじめた。
 WCFO採点様式

 コンペはイノベーションから始まり、午前中にノービスクラスまでを終了予定。
主催者の要望でWCFOスタイルだが、WCFOの採点様式は何ともややこしい。
採点項目が10項目もあり、項目により3点・2.5点・2点・1.5・1点と点数配分も違う。
私の老化しかけた頭で、瞬時に対応できる筈が無い。
解かりやすく言えば、スケートのフリースタイルやシンクロの点数発表が10回あり、
それぞれの最高得点が違うと思えばよい。かなり無理のある採点様式だ。
すべてを10点満点の採点でして、それぞれの項目に記載する際に
0.3・0.2・0.1などを掛ける事にした。
面倒くさいようだが、この方が悩む事無くずっと正確な採点が出来る。
おまけに採点表には講評も書かなければならない。
進行を妨げないように、得点計算をO氏に手伝って頂く事にした。

 イノベーションも終わり、ジュニアクラス(17歳以下)に出場した
二人のフリースタイラーは、甲乙付けがたい程非常にハイレベルだった。
A子は日本ではあまり見かけない犬種のダッチ・シェパードと、
趣味でやってると言うバトントワリングを駆使しての演技。
B子は小さい頃から習っていると言うクラシックバレーのトゥーシューズを履き、
柔らかな体を生かして、パピヨンと息の合った演技を展開する。

 振り付けの質や態度、ルーティンの正確さでは全く差がない。
犬の意欲と音楽に対するルーティンの統一性ではA子がややリード,
高難易度のルーティンと、その数と言う点ではB子がややリードと言った具合。
結局高難易度のルーティンと総合的な満足度で、差を付ける事にしたが、
10項目のチェックは審査までも狂わしてしまうほど大変だった。
ビデオがあるなら、あれでよかったのか、間違いなかったのか、
もう一度見直してみたい気がする。

 やはりレベルの高いヨーロッパ、確実に若い芽が育っている。
自分自身のルーツを求めて・・
若く有望なフリースタイラー、左ふたりが頭を悩ませたジュニア、
右は今大会の最高技術点賞を獲得した18才のフリースタイラー。

 テーマは「絆」

 午後からの出場者は、シンプルにまとめた人、衣装やメッセージに凝った人・・と様々だが、
みんな結構無難にまとめてきている。
失敗しても笑顔が絶えない所は、日本人も見習わなければならない所だろう。
事前にWiesから得た情報や、ビデオなどで得た情報を上回る出来栄えの作品が多い。
ジュニアクラスに出場したB子の父親は、嫁に行く娘への想いをメッセージした作品を紹介したが
ハンドラーのシンプルなムーブの中にも、トリックを上手に活用し、芸術的にまとめていたのが印象的だった。
持てるトリックのすべてを並べ立てるのではなく、少ないトリックをヒールワークで
きれいに正確につなぐ構成法は、私が日頃から生徒さん達に諭している事なので、
好みとして結果的に芸術点は高くなる。
好みで採点する事の良し悪しは問われる所であろうが、フリースタイル競技には付きものだ。
彼はドッグクラブの指導者のようだが、この作品で娘と共に今大会の「最高芸術点賞」を分け合う事になった。

 Wiesは愛犬のスイスホワイトシェパードで、東洋(中国?)をイメージした作品を、
あのインド女性は大きなドイツシェパードで念願のルーツを表現した。
一見集中力の持続が難しそうな、おっとりしたシェパードを、最後まで正確な演技で終了したが
残念ながら大きな得点源となる高難易度のトリックが少なく、技術点が伸びなかった。
他にも、ビヤ樽を小道具として持ち込む方、セミナーにも出席した車椅子のフリースタイラー、
インディアンのメークと衣装で登場の男性フリースタイラー。
きれいに編まれた三つ編みに、
「エッ!たしかスキンヘッドだったはずなのに??」
老若男女を問わず、みんな思い思いに楽しんでいる。

 朝方、会場に到着した直後の私の元に駆け寄り、
「今日のコンペに出場するんですが、私とっても上がり症なんです。どうしたら良いでしょう」と
自信なさげに言ったウエスティの婦人も、若干のミスはあったけどニコニコしながら演技を終了した。
「自信なさげな演技や、おどおどとして恥かしそうな姿を見せられる事ほど、
観客にとって苦しい事はありません。堂々とやればいいんです。もし失敗したら自分で笑えばいい」
「演技中でも自分で笑えばいい、そうすれば観客は微笑むと思います」と、
重ねて「自分で笑え」を強調しておいたが、とっさに出た変な助言が利いたのだろうか。
婦人は「自分で笑えば良いんですね。少し気が楽になりました」と、
変な助言を真面目に受け止めてくれていたが、これが利いたのであれば、Q&A集に追記しておかねば。

 オビディエンス競技もフリースタイルも、最終的には犬が喜んで作業を受け入れている事が大事だと思う。
フリースタイルにおいて、どのように高難易度のトリックが展開されようと、
そこに「絆」の存在が見えなければ、それはもはや失敗だと言わざるを得ない。
私は今回のコンペティションの為に「最高技術点賞」と「最高芸術点賞」のトロフィーを日本より持参した。
クリスタルのトロフィーに刻んだテーマは「絆」。
「Form a strong bond・Canine Freestyl」と共に、漢字でしっかりと「絆」の文字を刻み、各受賞者に渡したが、
受賞者がそれにふさわしい方であった事を嬉しく思っている。

 最後に、私の拙い技術が一人でも多くのオランダの愛犬家とその犬達の
「絆」構築の役に立つ事が出来るなら、この上ない喜びあり、そうなる事を願ってやまない。
最高芸術点賞を分け合った親子と・・
いつの間に髪の毛が・・

トロフィーにデザインした「絆」
 宴は終わった

 慌しく帰り支度をする中で、誰かが「記念写真を・・」と言った。
そうだ、記念写真らしきものをオランダに来てから全く撮っていない。
とりあえず近くにいた人達だけで集合写真や記念写真。
ところが、慌てて撮った写真のほとんどがピンボケだらけ。
手ぶれ矯正付きのカメラなのに何故?

 明日はいよいよ帰国。
比較的早い便の搭乗なので、朝のラッシュを考慮して、今日のうちに空港前のホテルまで移動だ。
ホテルの名前を聞いたみんなは、5本の指を立てながら手のひらを見せるように「五つ星だぞ!」とうらやむ。
シェラトンホテルには、現地ではまだ日があるうちの7時半位に到着したのだが、すでに玄関は閉まっていて右往左往。
やっとインフォメーションに着いたが、一人だけいた受付嬢は事務処理が遅い。
片方の耳は電話でふさがれていて、一向に受付が進まない。
後ろに並んだ何人かの宿泊客もいらいらして怒鳴り始める。
宿泊費以上の前金を支払って、やっとの事でルームキーを貰っても案内係などいない。
なるほど建物は芸術的で立派だが・・。
「技術点は10点満点で5つ星」
あらためて日本の接客技術の素晴らしさが解かった。

帰り支度の忙しい中、とりあえず近くにいた人と「ハイ・ポーズ」


 そして帰国

 宴のあとってこんなもの。
サービスの悪いホテルも、
スキポール空港での手際の悪い税関チェックの際のお土産まるごと紛失事件も、
乗り継ぎ先シンガポールの一流レストランの、すべてが薬膳食のような匂いのする食事も、
帰りの19時間のフライトも、
福岡空港での税関犬が反応したと思われる、二人揃っての手荷物中身チェックも、
「なんで、こうなるの」と欽ちゃん節で叫びたくなるような珍道中。

 明日は一日遅れで、オランダ療養中の皇太子殿下が帰国されるらしい。
現地の新聞に「日本人のほとんどが、アムステルダムは危険な所、オランダは危険な国」
と思ってるらしいと、書かれてあった事を、新聞を片手にWiesが我々に伝えた。
新聞と言えば、今回のセミナーの事がオランダの新聞に紹介された。(右写真)
何とものどかな国か。
色んな事はあったけど、オランダ人の名誉の為に言っておこう。
少なくとも、我々が出会ったオランダの方々は、道行く人を含めて、
すべての人が、人なつっこくて親切で良い人ばかりだった事を。

 オランダで出あったすべての方々に、フリースタイラー達に、
敬愛の念を込めて二つ目のオランダ語を・・・、  「トッツィー」

おわり